- 2008/12/25(木)
それは、あまりにも少なく、あまりにも優れ、あまりにも早く、そしてあまりにも若すぎた人々の集まりだった。PTという軍史を塗り替えかねない新兵器の運用に、連邦が与えた人材はたった6名。カーウァイ・ラウ大佐、テンペスト・ホーカー、カイ・キタムラ両少佐、そしてゼンガー・ゾンボルト、エルザム・V・ブランシュタイン、ギリアム・イェーガーの各少尉たち。平均年齢が27歳という若すぎる部隊に、連邦首脳は大役を押し付けた。なぜならばそのとき、上層部は誰一人として、PTの実用性を信じてはいなかったからだ。
後にDC戦争と言われたかの反乱に、この教導隊のうち3名までが名を連ねているのは、おそらくこのときに既に予見されていたのかもしれない。
ゼンガーは歩む足を止めた。廊下の先には金髪の男が椅子に腰掛けている。
「……エルザムか」
「ほう。やはり来たか、ゼンガー」
士官学校時代からの知己を見つけてゼンガーは近づいた。「お前なら来るだろうと思っていたよ」
「コロニーの方はいいのか」
「むしろコロニーの方がPTを必要としている。重力負荷は軽くなるし、エアロゲイターがくるならコロニーが真っ先に攻撃されるであろうからな」
「そうか。で、他のものは」
「次の便でくるそうだ。もっとも、俺とお前を入れてもわずか6名の小部隊だが」
「6名だと……!分隊一つにもならんぞ、上は何を考えているんだ?まさか下に何部隊かつくのか?」
「つかない。泣いても笑っても、6人きり」
エルザムは座ったらどうだと促す。「上はPTをでかいプラモデル程度にしか考えていないようだな。まともな運用など出来るはずもないと思っている」
「……」唇をひんまげてゼンガーは座った。「つまり教導隊とは名ばかりの、お題目部隊か」
「そういうことになるな。あれだけ費用と手間をかけたのだから、使えないというにせよ理由が必要だ。我らはいかにしてPTがへぼくかつ使えない武器であるか、6人がかりで検証しなくてはならないということだな」
「だがお前はそう簡単に済ませるつもりもないのだろう」
「こちらの上はPT配備を決めているからな」
「それ以上は聴かぬことにしておくぞ、エルザム」
上層部の意に反して宇宙軍がPT配備ということになれば、コロニーと地球圏の対立が激化する。ましてやそれがまともに使えるものだとすればだ。うかつに口にしていいことではない。
「賢明な判断だ。ましてやこんな状況ではな」
入ってきたのは紫の髪を長く下ろした男だった。年のころは25前後か。
「ギリアム・イェーガー少尉だ。よろしく」
「ゼンガーだ」
「エルザム・V・ブランシュタイン。階級は少尉。よろしく」
三人は手を出そうとして、ふっとお互いの顔を見た。そのまま、三つの手は重なる。
「始めようか」
パン、と掌がなって、三人は笑みを浮かべた。
「お、若人が熱血してるな」
日本人らしい男が入ってくる。続いてもう一人。
「お前だってまだ30過ぎたばかりだろうに」
「いやいや、もううちの娘の友達にはおじさん呼ばわりですよ。
と。カイ・キタムラだ、よろしく頼む」
こちらこそと穏やかに応えたのと、お願いしますと返したものと、敬礼だけしたもの一人。
「私はテンペスト・ホーカーだ。もうすぐ大佐が見える」
「いや、はじめからここにいたよ」
「……!」
ドアを開けて入ってきたのは大佐の階級証を付けた男だ。
「全員集まったようだな、入って座ってくれ」
ブリーフィングルームに全員が入ったのを見て、カーウァイ大佐が始めた。
「手短に言おう。この人間だけで、『でかいプラモデル』をものにしなくてはならん。する気がないのとできないと思うものは今ここで出て行ってくれ。転属願いは書く。とにかく時間も人もいない、無駄にするつもりはないからな」
ああ。ゼンガーは相手を見つめた。この人は、その『でかいプラモデル』をまともに運用するつもりなのだ。たったこれだけしかおらず、上層部も見放したこの状況下でも、あきらめるつもりなど欠片もないのだ。
「では始めよう。各自先渡ししたゲシュペンストの仕様書は頭に叩き込んであるな。自己紹介もかねて貴官らの運用計画を話してくれ」
ゼンガーは手を挙げた。
「ゼンガー・ゾンボルト少尉、初めてくれ」
「了解。PTの運用について陸・空の二つをまず確立し、その二つでも空戦法を優先するべきです。空戦であればPTの弱点である歩行を鑑みる必要がなく、戦闘機のノウハウを導入することもできるでしょう」
「ちょっとまってくれ、ゼンガー。歩行がPTの弱点であるなら、それをすぐに改善すべきだとおもうが?」
「……カイ少佐の意見はもっともですが、現在の所我々は、いや、誰一人としてゲシュペンストに触ったこともないし載ったこともないのです。動ける歩けるといったところで、設計者の遠隔操作では意味がない」
「宇宙であれば、試験機の負担も減らせる。ただし一月が限度だ、それから地上戦に移る」
自己紹介もそっちのけでディベートに入る様を見ながら、カーウァイは安堵していた。これならばやれる。上層部いうところの『でかいプラモデル』を、本物の兵器にしたてあげることができるだろう。
それならば自分のできることをするだけだ。彼らとともにPT運用とその戦術、戦略を確立するとともに、この部隊を死守することだ。
カーウァイは指を組んだ。議論はますます白熱し、ホワイトボードが真っ黒になっていく。これもまた、一つの戦いだった。
後に語り伝えられる、PT戦術を確立させ、敵味方を震撼させた特殊戦技教導隊の伝説は、ここから始まった。
それは、あまりにも少なく、あまりにも優れ、あまりにも早く、そしてあまりにも若すぎた人々の集まりであり、あまりにも力を持ちすぎてしまったが故に解散することになる人々でもあった。
歴史は彼らの業績をたたえ、あるいは貶める。
けれど一人として、彼らがその経歴を悔いたことはなかった。
むかしどっかで出したような気がします。
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後にDC戦争と言われたかの反乱に、この教導隊のうち3名までが名を連ねているのは、おそらくこのときに既に予見されていたのかもしれない。
ゼンガーは歩む足を止めた。廊下の先には金髪の男が椅子に腰掛けている。
「……エルザムか」
「ほう。やはり来たか、ゼンガー」
士官学校時代からの知己を見つけてゼンガーは近づいた。「お前なら来るだろうと思っていたよ」
「コロニーの方はいいのか」
「むしろコロニーの方がPTを必要としている。重力負荷は軽くなるし、エアロゲイターがくるならコロニーが真っ先に攻撃されるであろうからな」
「そうか。で、他のものは」
「次の便でくるそうだ。もっとも、俺とお前を入れてもわずか6名の小部隊だが」
「6名だと……!分隊一つにもならんぞ、上は何を考えているんだ?まさか下に何部隊かつくのか?」
「つかない。泣いても笑っても、6人きり」
エルザムは座ったらどうだと促す。「上はPTをでかいプラモデル程度にしか考えていないようだな。まともな運用など出来るはずもないと思っている」
「……」唇をひんまげてゼンガーは座った。「つまり教導隊とは名ばかりの、お題目部隊か」
「そういうことになるな。あれだけ費用と手間をかけたのだから、使えないというにせよ理由が必要だ。我らはいかにしてPTがへぼくかつ使えない武器であるか、6人がかりで検証しなくてはならないということだな」
「だがお前はそう簡単に済ませるつもりもないのだろう」
「こちらの上はPT配備を決めているからな」
「それ以上は聴かぬことにしておくぞ、エルザム」
上層部の意に反して宇宙軍がPT配備ということになれば、コロニーと地球圏の対立が激化する。ましてやそれがまともに使えるものだとすればだ。うかつに口にしていいことではない。
「賢明な判断だ。ましてやこんな状況ではな」
入ってきたのは紫の髪を長く下ろした男だった。年のころは25前後か。
「ギリアム・イェーガー少尉だ。よろしく」
「ゼンガーだ」
「エルザム・V・ブランシュタイン。階級は少尉。よろしく」
三人は手を出そうとして、ふっとお互いの顔を見た。そのまま、三つの手は重なる。
「始めようか」
パン、と掌がなって、三人は笑みを浮かべた。
「お、若人が熱血してるな」
日本人らしい男が入ってくる。続いてもう一人。
「お前だってまだ30過ぎたばかりだろうに」
「いやいや、もううちの娘の友達にはおじさん呼ばわりですよ。
と。カイ・キタムラだ、よろしく頼む」
こちらこそと穏やかに応えたのと、お願いしますと返したものと、敬礼だけしたもの一人。
「私はテンペスト・ホーカーだ。もうすぐ大佐が見える」
「いや、はじめからここにいたよ」
「……!」
ドアを開けて入ってきたのは大佐の階級証を付けた男だ。
「全員集まったようだな、入って座ってくれ」
ブリーフィングルームに全員が入ったのを見て、カーウァイ大佐が始めた。
「手短に言おう。この人間だけで、『でかいプラモデル』をものにしなくてはならん。する気がないのとできないと思うものは今ここで出て行ってくれ。転属願いは書く。とにかく時間も人もいない、無駄にするつもりはないからな」
ああ。ゼンガーは相手を見つめた。この人は、その『でかいプラモデル』をまともに運用するつもりなのだ。たったこれだけしかおらず、上層部も見放したこの状況下でも、あきらめるつもりなど欠片もないのだ。
「では始めよう。各自先渡ししたゲシュペンストの仕様書は頭に叩き込んであるな。自己紹介もかねて貴官らの運用計画を話してくれ」
ゼンガーは手を挙げた。
「ゼンガー・ゾンボルト少尉、初めてくれ」
「了解。PTの運用について陸・空の二つをまず確立し、その二つでも空戦法を優先するべきです。空戦であればPTの弱点である歩行を鑑みる必要がなく、戦闘機のノウハウを導入することもできるでしょう」
「ちょっとまってくれ、ゼンガー。歩行がPTの弱点であるなら、それをすぐに改善すべきだとおもうが?」
「……カイ少佐の意見はもっともですが、現在の所我々は、いや、誰一人としてゲシュペンストに触ったこともないし載ったこともないのです。動ける歩けるといったところで、設計者の遠隔操作では意味がない」
「宇宙であれば、試験機の負担も減らせる。ただし一月が限度だ、それから地上戦に移る」
自己紹介もそっちのけでディベートに入る様を見ながら、カーウァイは安堵していた。これならばやれる。上層部いうところの『でかいプラモデル』を、本物の兵器にしたてあげることができるだろう。
それならば自分のできることをするだけだ。彼らとともにPT運用とその戦術、戦略を確立するとともに、この部隊を死守することだ。
カーウァイは指を組んだ。議論はますます白熱し、ホワイトボードが真っ黒になっていく。これもまた、一つの戦いだった。
後に語り伝えられる、PT戦術を確立させ、敵味方を震撼させた特殊戦技教導隊の伝説は、ここから始まった。
それは、あまりにも少なく、あまりにも優れ、あまりにも早く、そしてあまりにも若すぎた人々の集まりであり、あまりにも力を持ちすぎてしまったが故に解散することになる人々でもあった。
歴史は彼らの業績をたたえ、あるいは貶める。
けれど一人として、彼らがその経歴を悔いたことはなかった。
むかしどっかで出したような気がします。
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